二百十日、結局なにも起きなかった
二百十日の朝、身構えた私を待っていたのは、ただの静かな一日だった。
今年最後の蚊、たぶん見逃した
叩き損ねた蚊が、気づけば今年最後の一匹だったかもしれない夜のこと。
涼しくなったのに、まだアイスを食べている
9月14日、23時。窓の外は虫の声なのに、冷凍庫からアイスを取り出す手だけは夏のまま。
お月見団子、白い方だけ先に食べた
19時40分のコンビニで月見団子を買った夜、白い団子だけ先に食べてしまう癖に気づいた話。
洗濯物、まだ生乾きのまま取り込んだ
9月のベランダで、洗濯物がなかなか乾かないことに気づいた朝の話。
彼岸花、今年も同じ場所に咲いていた
通勤路の土手に彼岸花。今年も同じ場所に咲いていることに、ふと立ち止まった。
台風が来る前に、パンを二個買い足した
台風が来ると聞いて、パンを二個多く買った夜のこと。
コオロギの声で、夏が終わったと知った
ゴミ出しのついでに聞いた虫の声で、夏が終わっていたことを知った夜の話。
コンビニのおでん、まだ早いと言われた
9月の夜、コンビニでおでんを求めたら店員に「まだ早い」と言われた。季節は待ってくれないのに、こちらばかり急いでいた。
防災リュック、賞味期限切れの水が出てきた
台風接近のニュースでリュックを開けたら、水も乾パンも期限切れ。それでも、と思った夜のこと。
ツクツクボウシの声が、いつのまに消えていた
9月の朝、ベランダで蝉の声が消えていたことにようやく気づいた。
半袖と長袖の間で、ずっと迷っている
半袖にするか長袖にするか、クローゼットの前で毎朝止まっている。
二学期のチャイムに、まだ体が反応する
9月1日の朝、小学校のチャイムに足が止まった。もう呼ばれていないのに。
秋刀魚、半身だけ買って帰った
秋刀魚が高くて、半身だけ買って帰った日のこと。
衣替え、半分だけ終わらせた
クローゼットの半分だけ夏服をしまって、そのまま力尽きた夜のこと。
金木犀の匂いに、まだ気づいていない
夕方の風が少し変わった気がした。でも金木犀は、まだ匂わない。
扇風機を、まだしまえずにいる
9月14日、扇風機の前に座ったまま。しまうタイミングを、また逃している。
自販機、お茶のボタンだけ売り切れだった
駅の自販機、お茶のボタンだけ光っていなかった。みんな同じものを選んでいた、その日。
花火の匂い、シャツからなかなか消えなかった
花火の匂いがシャツに残った数日間、消えていくものについて考えていた。
除湿機のタンク、また満杯になっていた
除湿機のタンクが毎晩満杯になる。空にしても、また満ちる。それでいいのかもしれない。
駅前の温度計、いつも高く出ている
39℃と出た駅前の温度計。本当はそんなに暑くないのに、信じて疲れてしまう話。
読書感想文がない夏に、まだ慣れない
8月末のスーパーで見た投げ売りの原稿用紙から始まる、締め切りのない夏についての話。
とうもろこし、剥いても剥いても出てくる皮
スーパーで買ったとうもろこしの皮を剥きながら、終わらないものについて考えた夜の話。
エアコンのタイマー、切れる前に目が覚めた
エアコンのタイマーが切れる前に、なぜかいつも先に目が覚めてしまう夜の話。
ラジオ体操のカード、もう判子を押してもらえない
涼しい朝の公園、もう鳴らないラジオ体操の音楽をふと思い出した朝の話。
昼寝から覚めたら、17時だった
扇風機の音の中でうたた寝し、気づけば17時。消えた時間をめぐる小さな話。
朝顔の蔓が、隣の敷地まで伸びていた
ベランダの朝顔の蔓が、いつのまにか隣の敷地の柵まで届いていた朝のこと。
盆休みの新幹線、指定席を間違えていた
指定席を間違えた13分間。毎年同じ号車を選ぶ癖から見えてきたもの。
駅のホームの扇風機、前だけ渋滞していた
18時32分、ホームの扇風機の前だけ人が渋滞していた。誰も並べとは言わないのに。
保冷剤、溶けきるまでしか涼しくなかった
冷凍庫から出した保冷剤の涼しさは、溶けるまでの短い時間だけだった。
冷凍みかん、待ちきれずにかじった
駅の売店で買った冷凍みかん、溶けるのを待てずにかじって、歯がしみた話。
日焼け止め、去年のはもう白く固まっていた
洗面台の奥から出てきた日焼け止め、去年のまま分離していた朝の話。
甲子園の歓声を、消音で見ていた
23時、テレビの音を消して見た夏。がんばる誰かと、がんばれない自分。
電車が、陽炎の向こうから来た気がした
18時52分、ホームの向こうが揺れていた。電車も、今日の自分も、輪郭がはっきりしない。
今年は帰らないと言ったら、母が笑った
8月13日、実家に帰らないと決めた夜。電話をかけたら、母は怒らずに笑った。
向日葵、こっちを向いてくれなかった
買った向日葵が動かない。太陽を追うはずなのに、と毎朝首をかしげた話。
盆踊りの潓、去年より小さくなっていた
太鼓の音に呼ばれて出かけた盆踊り。潓が、思っていたより小さかった。
自転車のサドル、触れないほど熱かった
駐輪場でサドルに触れて「あ」と声が出た日。熱さと自分の頑張りすぎが、少し似ていた。
ベランダのサンダル、片方だけ日焼けした
ベランダのサンダルが片方だけ色褪せていた。均等じゃなくてもいいのかもしれない。
うちわは、去年のイベント名のまま
引き出しの奥から出したうちわに、去年の夏祭りの名前が印刷されたままだった。
スイカを一玉買ったら、冷蔵庫に入らなかった
698円のスイカを一玉買って、冷蔵庫の前で立ち尽くした日のこと。
線香花火は、いつも同じところで消える
23時前、ベランダで線香花火に火をつけた。順番はいつも同じだった。
氷を入れすぎて、麦茶が薄くなった夜
氷を入れすぎて薄まった麦茶から、力の抜きどころを考えた夜のこと。
かき氷のシロップ、毎年同じ色を選ぶ
台所でかき氷機を出す。シロップは3本あるのに、手はいつもいちごへ伸びる。
氷枕、朝には水になっている
冷たかったはずの氷枕が、朝にはただの水袋になっている。それだけの夜の話。
土用の丑の日、うなぎを買わなかった
のぼり旗を見て条件反射で財布を確認したのに、結局買わなかった話。
打ち水をしたら、猫が来た
打ち水の意味なんて、たぶん誰も本気で調べていない。それでも続けている理由。
駐輪場の日陰を、知らない三人で分け合った
サドルが焼けるほど暑い日、駐輪場の日陰を知らない人と黙って分け合った話。
網戸の穴、結局そのままにしている
網戸に見つけた5ミリの穴。直そうとして、結局そのままの夏になった。
蚊取り線香を、最後まで燃やしきったことがない
30巻入りの缶を6月に買って、7月の終わりにまだ22巻残っている。
花火大会の音だけが、部屋に届いた
20時10分、ドン、と鈍い音がして、窓ガラスがほんの少し震えた。
スーパーに、もう盆の花が並んでいた
17時40分、いつものスーパーの入口に、ほおずきとみそはぎの束が出ていた。
ラムネの瓶、ビー玉が取れなかった
スーパーで買ったラムネのビー玉が、どうしても取れなかった夜の話。
風鈴の音が、うるさいと思った夏
ベランダの江戸風鈴が、ある日の帰り道から急にうるさく感じるようになった。
アイスの棒、今年も“はずれ”だった
コンビニのアイスの棒を舐めながら、当たらないことに慣れていく自分に気づいた話。
短冊に、何も書けなかった七夕の夜
スーパーの笹飾りの前で、短冊に何も書けなかった夜のこと。
深夜1時、製氷機の音だけが動いていた
眠れない深夜、製氷機の「ガコン」だけが律儀に動いていた夜の記録。
金魚すくいで、一匹もすくえなかった夜
破れたポイを片手に、獲れなかった金魚を見ていた七月の夜のこと。
コインランドリーの丸椅子、脚が一本短い
生乾きの匂いに負けて向かったコインランドリーで、何もない時間に出会った
夕立に降られて、傘を買うか迷った
傘を買うか迷っているうちに、雨のほうが先に止んでしまった話。
玄関で蝉の抜け殻を踏んでしまった
朝6時52分、玄関で鳴った乾いた音。踏んだのは、空っぽになった蝉の抜け殻だった。
冷凍庫の保冷剤が、もう定員オーバーだった
冷凍庫を開けたら保冷剤で氷が作れなかった。捨てられない自分と、少し仲直りした話。
扇風機の風に、ただ吹かれる夜
扇風機の首振りを眺めるだけの夜に、ふと気づいたこと。
冷蔵庫に麦茶があるだけで
帰宅して、冷蔵庫を開けて、よく冷えた麦茶を一杯。夏の暮らしの土台は、案外こんなところにある。
冷房の部屋で、ブランケットにくるまる幸せ
冷房を効かせた部屋で、薄いブランケットにくるまる。矛盾しているようで、これがいちばん落ち着く。
夜のコンビニまで歩く、五分間の旅
深夜、特に買うものもないのにコンビニまで歩く。あの往復五分の中に、妙な自由がある。
「おつかれさま」を、自分にも言う
「おつかれさま」って、他人には一日に何度も言うのに、自分に言ったことは一度もなかった。
朝7時のゴミ出しで、今日はもうだめだと思った
ゴミ袋を持って外に出て、3歩で後悔した。クソ暑い。朝7時の時点で、今日はもうだめだと思った。
ティッシュを箱ごと抱えて、映画で泣いた
あらすじも結末も知っている。3回目だから。それでも今夜、この映画で泣くと決めて再生ボタンを押した。
金曜日の夜更かしは、どうしてあんなに甘いのか
平日の夜更かしは翌朝の後悔になるのに、金曜の夜更かしだけは、ごほうびの味がする。
今月、そうめんを11回ゆでた
数えるつもりはなかった。ゴミ箱の、そうめんの帯の数で、わかってしまっただけだ。
午前3時14分、自分の汗で目が覚めた
人間は、自分の汗で目が覚められる。この夏いちばんの発見が、これでいいのだろうか。
カレンダーの土曜に「無」と書いた
予定の名前ではない。何も入れない、という予定だ。書いたのは私だ。見るたび、ちょっと笑う。
夜11時、天井の電気を消してみたら
自分の部屋が、コンビニと同じ明るさで深夜まで営業していたことに、3年目で気づいた。
会わなくなった友達を、嫌いになったわけじゃない
あんなに毎日一緒にいたのに、もう何年も会っていない。ふとした瞬間に思い出す、あの人たちのこと。
予定のない週末に、罪悪感はいらない
気づけば日曜の夜。「今週末、何もしなかったな」という、あのうっすらした罪悪感の話。
「お一人様ですか」に、はいと言えた
この「はい」が言えるようになるまで、10年かかった。
湯船にお湯をはる、それだけの夜
いつからか、お風呂はシャワーで済ませるものになっていた。湯船にお湯をはるだけで、夜はこんなに変わるのに。
友達と会ったあと、どっと疲れてしまうあなたへ
会っている間は楽しい。なのに帰り道や家に着いた瞬間、どっと疲れが押し寄せる。そんな自分を、責めなくていい。
変わりたいのに変われない、を責めないで
「明日から本気出す」と何度誓っただろう。そして今日もまた同じ自分。でも、変われないのは意志のせいじゃない。
つい人と比べてしまう自分が、嫌になる日に
SNSで誰かのキラキラを見て落ち込む。そして、いちいち比べてしまう自分にも嫌気がさす。そんな夜の話。
がんばっているのに、報われない気がする夜に
「こんなにがんばっているのに、何も変わっていない気がする」。布団の中でふいに訪れる、あの心細い夜のこと。
日曜の夜が、少しだけ憂うつなあなたへ
日曜の夕方、あの音楽が聞こえてくる頃に、胸の奥がすっと重くなる。あの感覚の正体と、少しの処方箋。
「ちゃんとしなきゃ」に疲れた日に
部屋を片付けなきゃ、自炊しなきゃ、もっと成長しなきゃ。頭の中で鳴り続ける「べき」の声に、疲れていませんか。
サブスクを全部見直したら月5000円浮いた
動画、音楽、アプリの課金。ひとつひとつは小さくても、積もれば月5000円。全部書き出してみたら景色が変わった。
早起きが続かない私が見つけた“ゆる朝活”
5時起き、ランニング、勉強——理想の朝活で何度も挫折した。続いたのは「15分だけ早く起きる」だった。
サウナで“ととのう”を覚えた日
サウナ→水風呂→外気浴。この繰り返しの先にある“ととのう”感覚を知ってから、週末が待ち遠しくなった。
なぜカフェだと作業がはかどるのか
家の机では1ページも進まないのに、カフェに来た途端に集中できる。あの現象には、ちゃんと理由があった。
何も買わない休日をやってみた
丸一日、一円も使わないと決めた休日。不便かと思いきや、むしろ心が軽くなる発見があった。
スマホを置いた30分がくれるもの
気づいたら1時間、指がスクロールを止められない。そんな自分に嫌気がさして、スマホを別の部屋に置いてみた。
金曜はコンビニ新作の日
給料日でもご褒美でもない、たった300円の新作スイーツ。でもこれが、平凡な一週間の小さなゴールになっている。
一人暮らしの自炊を続ける小さなコツ
一人暮らしを始めた頃、張り切って自炊して、2週間で挫折した。続けるコツは「ちゃんとやらない」ことだった。
“推し”がいるだけで平日が変わる
推しがいると、なんてことない水曜日が「配信がある日」になる。生活に小さな目印が増えていく。
23時、インスタを閉じて湯を沸かした
親指が勝手に開いて、勝手にスクロールして、気づいたら40分。閉じたあと、天井がやけに低く感じた。
夕方の散歩という贅沢
夕方、日が傾きはじめる頃に家を出て、あてもなく近所を歩く。ここ最近、それがささやかな習慣になっている——。
梅雨の日の小さな楽しみ
雨が続くと、つい気分も沈みがちになる。けれど最近、雨の日にもちょっとした楽しみがあることに気づいた——。