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扇風機の風に、ただ吹かれる夜

電気を落とした部屋で、扇風機だけが小さく唸っている。首がゆっくり右へ、左へと動くたびに、風が肌をかすめて通り過ぎていく。窓の外からは、遠くの誰かの生活音と、途切れがちなセミの声が混ざって聞こえてくる。

風には、昼間の熱をまだ含んだ匂いが少し残っている。畳やフローリングにじかに座ると、床のひんやりした感触が背中に伝わってきて、それだけで少しほっとする。何をするでもなく、風が来るのを待つ。ただそれだけの時間。

スマホも見ず、テレビもつけず、扇風機の首振りをぼんやり目で追っているうちに、今日一日にあった小さな苛立ちが、風と一緒にどこかへ流れていくような気がした。何もしないことが、こんなに静かに効くとは思わなかった。

予定を詰め込んで、常に何かを片付けていないと落ち着かない日々の中で、風だけを感じている時間は、ずいぶん久しぶりだった。涼しさを求めていたはずなのに、気づけば涼しさよりも、この「何もしなくていい感じ」の方をありがたく思っていた。

扇風機は特別なことは何もしてくれない。ただ同じ動きを繰り返し、同じ風を送り続けるだけだ。けれどその単調さが、今日はちょうどよかった。変わらないものが一つそばにあるだけで、気持ちが少し落ち着くこともある。

明日もきっと暑いし、やることは相変わらず残っているけれど、今夜はこれでいい。扇風機の音を聞きながら、ただ風に吹かれている。それだけで十分な夜も、夏にはあっていいと思う。

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