夏の帰り道、家に近づくにつれて考えていることは、だいたい同じだ。「冷蔵庫に麦茶、あったっけ」。玄関を開けて、鞄を置くより先に冷蔵庫へ向かい、よく冷えたポットから一杯。喉を通る冷たさに、今日一日の暑さがやっとほどける。
麦茶は、飲み物の中でいちばん地味だと思う。カフェのメニューには載らないし、誰かに自慢することもない。でも夏の間、私の暮らしをいちばん近くで支えているのは、間違いなくあの茶色いポットだ。
切らしてしまった日の、あのがっかり感といったらない。仕方なく水を飲みながら、パックを水に放り込む。数時間後の自分のための、小さな仕込み。考えてみればあれは、未来の自分への、ささやかな仕送りのようなものだ。
一人暮らしを始めたばかりの頃は、飲み物なんてコンビニで買えばいいと思っていた。でも、ペットボトルを毎日買う生活と、冷蔵庫にいつも麦茶がある生活とでは、お金の差以上に、暮らしの安定感が違う。「家に帰れば、冷たいのがある」という確信は、思いのほか心を支える。
丁寧な暮らし、というほどのものじゃない。ただ、寝る前に麦茶を仕込むだけ。それでも、自分の生活を自分で回せているという小さな実感が、そこにはある。夏の自信は、案外、冷蔵庫の中のポットから始まるのかもしれない。
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