正直に言えば、サウナなんて「我慢大会の部屋」だと思っていた。熱いのが好きな人が、熱さに耐えるだけの場所。それが変わったのは、友人に半ば強引に連れて行かれた、ある土曜日のことだ。
木の香りのする薄暗い室内で、砂時計の砂が落ちるのをじっと見ていた。じわじわと汗が滲んで、心臓の音が大きくなる。「もう出たい」と思ったところで、隣の友人が言った。「ここからが本番だから」。
水風呂は、想像を裏切る冷たさだった。息を呑んで肩まで沈むと、全身の輪郭が急にはっきりする。そして、外気浴。濡れた体で椅子に沈んで目を閉じた瞬間——頭の中の雑音が、すっと消えた。仕事の心配も、返していないメッセージも、何もかもが遠くなって、体だけがふわりと軽い。ああ、これが「ととのう」か、と思った。
あの数分間、私は完全に「今」にいた。スマホも締切も存在しない時間を、これほど確実に作れる場所を、私は他に知らない。
以来、週末のサウナが習慣になった。かかるお金は、映画一本ぶんくらい。特別な道具も、才能もいらない。一週間ぶんの頭の中を、いったん白紙に戻しに行く。月曜の自分への、これがいちばん効く仕送りだ。
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