一人暮らしを始めた春、私は張り切って炊飯器と、使いもしない土鍋まで買った。自炊で節約して、栄養バランスも整えて——そんな理想は、二週間できれいに崩れた。シンクに溜まった洗い物を見なかったことにして、コンビニの袋を提げて帰る夜が続いた。
敗因は、はっきりしている。「ちゃんとした自炊」を目指したことだ。一汁三菜、彩り、作り置き。疲れて帰った体に、その理想は重すぎた。
再開できたのは、ハードルを床すれすれまで下げてからだ。ごはんと味噌汁だけでいい。おかずは冷凍餃子でいいし、納豆でいい。なんなら味噌汁はインスタントでいい。「それは自炊と呼べるのか」という頭の中の声は、無視することにした。
米だけは炊いておく。これだけで、世界は変わる。コンビニの唐揚げが「おかず」になり、卵かけごはんが立派な一食になる。ゼロか百かで考えるから続かない。三十点の自炊を、細く長く。
今でも、何もしたくない日はある。そういう日は堂々とサボる。料理は義務ではなくて、自分をちょっと大事にするための手段だから。うまく作れた日の「おいしい」も、サボった日の気楽さも、どちらも自炊の一部だと、今は思っている。
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