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ベランダのサンダル、片方だけ日焼けした

朝の8時半、ゴミを出しにベランダのサンダルに足を入れたら、なんだか片方だけ妙に白っぽいことに気づいた。左は買ったときのままの、少しくすんだネイビー。右は、なんというか、脱色したジーンズみたいな色になっていた。

同じ日に、同じ袋から出して、同じように玄関の外に並べたはずなのに。片方だけ、律儀に太陽を浴び続けていたらしい。手すりの陰の角度なのか、それとも私が毎回同じ向きで脱いでいるからなのか。理由を考えかけて、まあどうでもいいかとやめた。

サンダルの裏はコンクリートの熱をそのまま吸っていて、素足で踏むとじんわり熱い。プラスチックの匂いと、隣の部屋の换気扇から流れてくる焼き魚の匂いが混ざって、それもまた8月の匂いだった。ベランダの手すりは触ると火傷しそうで、洗濯物のタオルだけがぱりぱりに乾いている。

正直に言うと、このサンダル、几帳面な性格の私にとってはちょっとしたストレスだった。色違いの片方を見るたびに、なんとなく落ち着かない。片方だけ日に焼けた腕みたいで、直視すると「あ、非対称だ」と毎回思う。誰も見ていないのに、無意識に右足を隠すように立ってしまう自分がいる。

これ、均一に日焼けさせる方法はないものかとしばらく考えた。定期的に左右を入れ替えて置けばいいのでは、と思いついて、その日から律儀に朝晩サンダルを回転させる生活が始まった。三日坊主どころか一日で忘れた。夜、酔って帰ってきた自分に、そんな几帳面さは残っていなかった。

そうこうしているうちに、右のサンダルはさらに白くなり、左との差はますます開いていった。もう入れ替えるとかそういう次元じゃない、ここまで来たらいっそ気にしないほうが早いんじゃないか。そう思い始めたのが、たぶん8月に入ってから二週間目くらいのことだ。

気にしないと決めた瞬間から、不思議とそれが視界に入らなくなった。人間の目というのは都合よくできていて、諦めたものはすっと風景の一部になる。今では玄関を出るとき、色の違いよりも先に、今日は暑いなとか、セミがうるさいなとか、そっちのほうが気になるようになった。

セミといえば、うちのベランダの前の街路樹に、毎朝同じ木で鳴いているやつがいる。地上に出てから鳴けるのはせいぜい一週間くらいだと聞いたことがある気がするが、確かめたわけじゃないし、確かめる気もない。ただ、あの声を聞くたびに、限られた時間で精一杯やっているんだなと、勝手に励まされたり、勝手にしんみりしたりしている。

話がそれた。サンダルの話だった。……と、ここまで書いて気づいたのだけど、私はこの片方だけ焼けたサンダルのことを、ずっと「直すべき欠陥」として見ていたんだと思う。揃っていないことを、間違いだと思っていた。でも改めて眺めてみると、これはこれで、うちのベランダの日当たりの記録みたいなものだ。左右の色差は、この夏、あの場所にどれだけ光が降り注いだかの記録でもある。

均等に注がれることなんて、実はそんなにないのかもしれない。同じ日に生まれても、同じ部屋で育っても、光の当たり方は少しずつ違う。仕事だってそうだ。同期で入ったのに、なぜか自分だけ地味な部署に配属されて、隣の席の同僚だけ日の当たる案件を任されている。あれも結局、置かれた場所の角度の問題であって、実力の差とは限らないんじゃないか。いや、それは都合のいい解釈だろうか。わからない。わからないままにしておく。

夕方6時を過ぎると西日がベランダに斜めに入り込んできて、その時間だけは逆に左のサンダルのほうが影に入る。つまり、この片方焼けの差も、実は永遠に固定されたものじゃなくて、季節が進めば日の角度も変わって、少しずつ均されていくのかもしれない。今この瞬間の非対称は、通過点にすぎない。そう思うと、なんだか少し呑気な気持ちになれた。

とはいえ、9月になっても10月になっても、たぶん私はこのサンダルの色差を気にしたり気にしなかったりを繰り返すんだろうと思う。今日は気にならなくても、明日ふと目について、またちょっと苛立つかもしれない。矛盾しているけれど、それでいいんだろう。きれいに解決しないことを、無理に解決したふりをしなくていい。

夜の11時、明日のゴミを出す前にもう一度サンダルを見た。相変わらず片方は白く、片方は紺色のままだった。揃っていなくても、ちゃんと両方とも私の足を支えてくれている。それで十分じゃないかと、当たり前のことに今更気づいた。

あなたの足元にも、こういう小さな不揃いがひとつくらいあるかもしれない。揃っていないことに、今日もよく気づいたと思う。それだけで、もう十分丁寧に生きている証拠なんじゃないだろうか。

サンダルは、たぶんこのまま来年まで同じ色差を保ったまま、玄関で私を待っている。均等じゃなくても、ちゃんと歩ける。それだけでいいと、今は思えている。

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